昭和55年、冬。
銀行で働きながら、母・イトと暮らす長女・いずみは、
結婚式を明日に控えていた。
いつも通りの一日を終えた、その日の夜。
イトはいずみに、初めて今は亡き誠志郎の夢を明かす。
それはこの家から娘を嫁がせる事。
誠志郎から受け取った愛と、今もなお一層溢れる思いを語るイト。
突然の母の言葉に、いずみはただ涙を流すばかりだった。
明治の末に建てられた楽寿亭を料亭とし、
その離れ屋敷に開かれた石川塾。
二代目を務める誠志郎の元、いずみは母・イト、
妹のかえでと共に家族4人で仲良く暮らしていた。
しかし誠志郎が急逝し、
母が内職で和服や洋服を仕立て、2人の娘を育てあげた。
成長したいずみは、父の代わりに一家の主になろうと、
家をなかなか出ることができなかった。
時は流れ、
町の再開発のために取り壊しが決まった楽寿亭で、
挙式は行われることになった。
美しい白無垢の花嫁となったいずみ。そしてお色直しの後、
いずみたちと一緒に振り袖姿で現れたのは、
シングルマザーとして働きながら子供を育てた妹・かえで。
娘二人の美しい姿を見つめながらイトの心には、
家族4人で共に暮らした日々の情景が色鮮やかに蘇る…。